レイニィレイディ

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   ──風邪、ひきますよ? 「心配してくれるんですか? ふふ、優しいんですね。」  横顔でにっこりと破顔する。優しげに細められる目と、緩む頬。美しい微笑に僕の鼓動が不意に高鳴った。 「でも大丈夫ですよ。ありがとうございます。」  それよりも、と彼女は付け足した。 「私なんかに構っていたら、あなたこそ風邪をひいてしまいますよ?」  ──いえ、それこそ無用な心配です。僕は傘をさしていますし、服も濡れていませんから。 「おや、そうですか。うーん……、でも、やっぱりダメですよ。こんな雨の日に雨晒しなんて。私じゃないんですから。本当に、私なら大丈夫ですから。行ってください。」  優しい声色で、だけどはっきりと僕の干渉を拒む感じだった。だから僕はそれ以上の会話を諦めた。  ──じゃあ、僕行きますね。 「はい。お気をつけて。」  別れを交わして、彼女を通り過ぎる。一歩二歩三歩と遠ざかり、八歩目で一度だけ振り返ってみた。ざあざあと雨粒が降り注ぐ中、依然として彼女は雨雲を眺めていた。  翌日、月曜日。まだ雨は降り続いていた。学校に行くまでの道の途中、あの場所によると遠回り。立ち寄るならば下校時だなと、朝方の曇り空を眺めながら考える。  ──雨よ止むな。  空に向けて呟いて、僕は足早に学校を目指した。  
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