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がちゃがちゃ、だんだん、がたがた──。
依然としてがなりたてる風雨の声は、必死な訴えのようにも聞こえて、それはなんとなく悲痛な叫びなのではないかと思った。よくホラー映画なんかに出てくるような、女性が許しを請う声。助けて、助けて、と──。
そこまで考えてふと『あれ?』と思った。女性の声が聞き覚えのある誰かの声で再生されていたからだ。雨音がばらばらと乱暴に家屋を殴りつけている。音に沈む部屋の中で、頭を掠めたさきの引っ掛かりが、僕は気になっていた。
──雨だ。
呟き。引っ掛かりの正体。脳裏によぎるホラー映画の女性に、昼間の“彼女”が重なった。
嵐吹き荒れる中、ひたすらに佇む黒髪の麗人。呆然と黒雲を眺めながら、傘も差さず、打ちつける水弾に為すすべもなく蹂躙をゆるす彼女の姿。助けて、助けて、と。天に語り続ける雨女。
いや、そんなわけない。
思わず浮かび出た映像を振り払うように、僕はかぶりを振った。
台風だ。もはや避けようのない直撃なのだ。街には暴風注意報。明日には警報に切り替わるであろう状況で、そんなわけがない。そんなわけが。
がばりと布団を頭までかぶる。騒音を防音して、予感を楽観する。眠りに落ち、楽になろうと睡魔を求めた。
……でも、眠れるわけがなかった。
騒音のせいで、雑念のせいで、一睡もせぬまま、朝はきたのだ。
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