第31話 おじいちゃんの幽霊

2/2
前へ
/309ページ
次へ
私が小学生だった時、母方のおじいちゃんが緊急入院してしまいました。 私と弟と父母の家族総出で病院へ駆けつけると、おじいちゃんはベッドで酸素呼吸器を付け、話かけても全く反応がありません。 それは小学生の私ですら、もうおじいちゃんは助からないのではないかと思ってしまう状態でした。 しばらくすると母が、私と弟を連れて一旦家へ帰る事になりました。 父だけ病室に残り、もしも何あれば直ぐに連絡すると言って別れます。 普段であればもうとっくに寝ている深夜でしたから、帰宅すると私達はいつの間にか寝てしまいました。 翌朝、日が昇り始めた頃に私は自然と目が覚めました。 目覚まし時計でもなかなか起きない私が、普段より短い睡眠なのにスッキリと起きてしまったのです。 まだ寝たいのになと思って寝返りをうち、隣に寝ている弟の方を見て、私は思わず悲鳴を上げそうになりました。 弟のすぐ横に、病院で入院中のおじいちゃんが座っていたのです。 何でおじいちゃんが家に居る?! 頭が混乱していると電話が鳴り響き、おじいちゃんが危篤だという一報が入った為、私達は急いで身支度をしてタクシーを拾い病院へと向かいました。 家に居たはずのおじいちゃんは、いつの間にか消えていました。 「夢でさぁ、おじいちゃんに肩叩かれた。」 タクシーに乗っている時、弟はそう言っていました。 母親は「うん。」と応えるものの相手にはしていないようでしたが、私はやっぱりそうなのかと黙って弟の話を聞いていました。 今朝見たのは、おじいちゃんの幽霊ではないか。 まだ亡くなっていないおじいちゃんが幽霊として出た、という事はやはり…。 恥ずかしながら、大人になった今でも幽霊とかお化けが凄く苦手な私です。 今だからこそあれこれ考えられますが、当時の私にとっては身内とはいえ恐怖でしかありません。 病院へ到着すると親族が集まっていて、おじいちゃんは息を引き取る寸前でした。 皆が最後に声を掛けていましたが、おじいちゃんは全く反応がありません。 そして医者が何やら確認をすると、おじいちゃんは天国へと行ってしまいました。 私はおじいちゃんの幽霊を見てしまった事が引っかかり、怖くて本気では泣けませんでした。 確かに悲しくて涙は出るのですが、ずっと鳥肌が立って周りをキョロキョロと見てしまいます。 おじいちゃんが病室から運ばれてお葬式が終わるまで、私はまたおじいちゃんが幽霊として何処かに居るのではないかとずっと考えていました。 ですがおじいちゃんの幽霊は出る事が無く、火葬の日となりました。 亡骸とはいえおじいちゃんが燃やされてしまう。それは本当に最後の別れのように感じて自然と涙が出て、手を合わせながら心の中で最後の言葉をかけました。 「おじいちゃん、今までありがとう。」 火葬には時間がかかり、私はトイレへ行きたくなりました。 用を済ませて手を洗おうと鏡の前に立ちます。 すると鏡には、私の後ろにおじいちゃんの姿が映っているではありませんか。 勿論振り返っても誰もいません。 恐怖でトイレから逃げるように出ましたが、他の人に 「おじいちゃんの幽霊が出た!」 とは不謹慎な気がして言えませんでした。 だって本人のお葬式中でしたから…。 大人になってからは家族にこの話をしていますが、あのおじいちゃんならやりかねないという感想です。 子供が好きでお茶目なおじいちゃんでしたが、幽霊として出るのは流石に勘弁して欲しいものです。 心の中ではおじいちゃんに申し訳無いと思いながらも、私のような類の人間にとっては怖さが圧倒的に強いだけですから。 その後はおじいちゃんの幽霊を見ることはありませんでしたが、きっと天国で怯える私の姿を見てほくそ笑んでいるのだろうと思います。 END……
/309ページ

最初のコメントを投稿しよう!

157人が本棚に入れています
本棚に追加