第33話 2人の子供

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夫と私は学生時代に出会って、結婚したのは25歳の時です。 同い年でお互いに頑固なものですから、今も昔も喧嘩が絶えませんが、そこそこうまくやってはいると思います。 これはそんな私が、夫との結婚を決めるきっかけになった出来事です。 その晩、お腹が痛かった私はやっと会社から帰ると、着替えもせずクッションを枕代わりにして休んでいました。 30分くらいすると、彼も帰ってきました。 結婚はまだしていませんでしたが、私達は当時、同棲していたのです。 「あれ、寝てたの?ご飯は?」 しばらく険しい顔で彼は私を見下ろしていましたが、何も答えない私をまたいで着替え、そのままどこかへ出て行ってしまいました。 どこかへ外食にでも行ったのでしょうか。 一言くらい、優しい言葉をかけて欲しかった。 具合が悪いのだと、見て分かるでしょうに。 起き上がるとお腹の痛みは軽くなっていましたが、それ以上に悲しみが辛く感じました。 都会の生活にも、彼との生活にも疲れた。もういい、実家へ帰ろう。 衝動的になった私は、必要最低限の荷物だけを持って駅に向かいました。 バスの最終便まであと30分。 近道の神社を通れば、15分で着く。 石の階段を上って境内を横切り、また石の階段を下れば駅です。 神社はお祭りだったようで、多くの人や夜店で賑わっていました。 足早にその間を通り過ぎようとした時、手をグッと誰かに掴まれました。 振り返ると、そこには浴衣を着た女の子と男の子が居たのです。 歳は女の子で5歳、男の子も3歳ほどでしょうか。 当然、私とは面識もない子です。 そこからの記憶はハッキリとはしないのですが、子供に手を引かれるまま歩くと、見た事もない場所へ紛れ込んでいました。 暗闇の中、樹木の間を通過してゆきます。 木にはよく見るとカラスが集団で居て、目が合うと威嚇なのか羽を広げて鳴き声をあげてきます。 「おーい、大丈夫か?まだ具合悪い?」 体を揺さぶられて起きると、目の前には彼がいました。 いつの間にか、私は公園のベンチに居たのです。 夫は買い物をして戻ると、私が部屋にいないので慌てて探したそうです。 幸いにも近くの公園だったのですぐ発見出来たと、息も絶え絶えに言います。 手にはコンビニの袋を持っていました。 「病気なんてしないからビックリしちゃったよ。」 袋の中には、栄養ドリンク、風邪薬、冷感枕、胃腸薬、お弁当、レトルトのお粥が入っていました。 「会話って大事だね。」 「お互いにね。」 こうして誤解が解けた私達はその後しばらくして結婚し、私と夫の間には女の子と男の子が産まれました。 そしてこの子達なのですが…神社の境内で私の手を引っ張ったあの子供と、瓜二つなんですよね。 まさか将来産まれる自分の子供が、私と夫の仲を取り持ったとでもいうのでしょうか。 私の単なる記憶違いだと思いたいのですが、どこか運命的な縁も感じてしまう体験でした。 GOOD END!!
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