13人が本棚に入れています
本棚に追加
「先生はなんだって? 何か治療法は見つかった?」
見舞いに来る度にぶつける質問を今日も投げる。すると彼女は苦笑いを浮かべ、首を横に振った。
「今はね、この辺りにいるらしいよ」
上着を捲り、腹を外部に晒す。それから臍の左の方を指差した。
「やっぱり、見ただけじゃ分からないな」
彼女が指を差しているところには入院前より肉の薄くなった白い肌があるだけで、そこに何かがいるとはとても思えなかった。
「治療法はないけど、手術の方法は大方決まったんだって。先生が話したんだけどやっぱり、心臓から遠い脚に誘き寄せて取り除くのが確実、らしいよ」
「それは脚を切り落とすってこと?」
「うん」
彼女の迷いない肯定に僕は「そう」とだけ答える。
彼女の体の中には一匹の虫がいる。いや、本当に虫かは分からないが、とにかく何か生き物が棲んでいる。二カ月前に彼女が突然、お腹が痛いと言って倒れたことから判明した。
医者が彼女の身体を弄り回って分かったことは、そいつは人間の身体を内側から食べ、自由自在に体内を移動するということだけ。手術で取り出そうにも、あちこちに動かれるからどうしようもないらしい。
彼女の体内に金属板を埋め込み、逃げ道を狭めながら捕まえようという案が京都の医者から出たらしいが、彼女の体力が持たないということで却下された。
最初のコメントを投稿しよう!