奇跡の行方

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 そうして医者が解決策を見出せないまま時間がだけが過ぎ、今も彼女の体内は奴に食い荒らされている。しかも奴は、彼女を食べることで少しずつ成長して体が大きくなっており、一度の食事量が増え移動速度も速くなっているらしい。  彼女は外出禁止を病院から言い渡され、個室を与えられる代わりに自由を奪われた。まあ、今となっては外出禁止令なんて意味ないんだろうけど。  彼女はもう歩けないから。食事だって、固形物を口にすることができないところまできている。  担当医である先生は本当に彼女のことをいろいろと考えてくれているけど、他の医者はゲーム感覚でやっているとさえ僕には思えていた。山にいる虫をどんな方法で捕まえるか悩む、小さな少年達のように。 「脚を切るっていうのは、先生の意見?」  僕の質問に彼女は首を横に振る。 「アメリカかどっかの、何か偉いお医者さんの案らしいよ。薬で脚に虫を誘き出し、そこをスパッと」  彼女は右手を自分の右足に振り下ろす。一体、どんな気持ちでその動作をやったのか、きっと僕には一生理解できないだろう。それこそ、自分も同じ立場に立たないことには。 「薬って……相手の正体すら分からないのに、上手く誘き寄せるにはどの薬がいいかなんて分かるのか?」 「うーん。先生も同じこと言ってた。でも相手がそういう偉い人だから、結局押し切られたらしいよ。手術も先生じゃなくて、その偉い人がわざわざ福岡に来てやるんだって」  やっぱりゲーム感覚だ、と僕は思う。  大多数の医者にとって、彼女は珍しい症例を持つ病人でしかないのだろう。正確には病気とは違うんだけど。
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