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「おーい。顔が怖いよー」
よしよし、と彼女が僕の頭を撫でる。
手術というのは人を助けるために行うものなのに、今回の手術は彼女を楽に――彼女を殺すために行うものという風にしか僕は思えないでいた。目に涙が浮かびそうになるのを堪え、頭を下げたまま彼女に撫でられ続ける。
「手術、本当にするんだよな」
「うん、するよ。今年は無理でも、来年の誕生日はあなたと二人で過ごしたいから」
「そう」
頭を上げる。彼女は手をゆっくりと退け、僕に対して笑顔を作った。「……そういうのがムカつくんだって」
「え?」
彼女は驚いたように目を見開き、首を傾げる。僕もつられて首を傾げ、自分が口にした言葉を頭の中で反芻した。
そういうのがムカつく。
頭の中でいつも思っていたことが、つい口に出てしまったらしい。僕は目眩のようなものを覚え、ベットに突っ伏しそうになるのを堪える。
一番辛いはずの人間にそんなこと言ってどうするんだよ。
だけど彼女は、怒ることも落ち込むこともなくまた笑い、「やっと、本音を言ったね」と言った。
「君が私に不満があるというのはずっと分かってたけど、何だ、そんなことだったのか」
「そんなことって……」
「そんなことだよ。私、嫌われたのかと思ってたもん」
「そんなことはない!」
つい大声を出してしまう。小説や安いっぽい歌詞のような台詞だけど、僕は彼女のことは心から愛している。死ぬまで愛していけるかは分からないけど、それでも、今は一番大切な存在だ。
家族よりも。
自分よりも。
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