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鞄を持って椅子から立ち上がり、扉の前まで歩いたところで振りかえる。彼女は首を傾げ、『どうしたの?』と訊きたそうな顔をしていた。
「クリスマス」
「ん?」
「いや、今年は無理でも来年のクリスマスはさ、二人でどっか出かけよう。とデートに誘ってみたり」
「クリスマスは苦手でしょ? 人混みとか、クリスマス色の町とか」
「君の回復祝いと考えれば耐えられるよ」
何それ、と彼女が笑みを漏らす。喜んでいるようだから良かった。
「――あなたは、来年まで私のことを好きでいられるのかな?」
「『今日も愛してる』の積み重ねが、僕達を来年に導くのですよ」
意味分かんねー、とまた笑われた。
「それじゃあ、約束だね」
「うん。バカップルみたいにさ、二人で一つのマフラーを巻いて、あちこちのカップルに見せつけよう」
「私、多分、脚を切ってるから車椅子だよ」
「それだけ長いマフラーなんだから、問題ないよ」
それじゃあ、と病室を出る。
廊下も暖房は効いているんだろうけど、部屋に比べたら全然寒い。僕は彼女の病室の扉に体重を預け、手を組んで祈った。
祈ったところで未来は変わらない。だけど僕達人間は、こういった目に見えないものに拠り所を求めてしまうんだ。自分の心にある重りを、ほんの少しでも請け負ってもらおうと。
「……いや、預けちゃ駄目だろ」
自分の行為が間違いだと気付き、僕はすぐに祈りを止める。
大事な人に対する想いは、誰にも預けたくない。
これは、僕だけの想い(もの)だ。
扉を離れ、来た時に使ったエレベータへと歩いて行く。
明日もまた、僕は彼女のお見舞いに行く。『今日も愛している』という言葉は、毎日言わないと意味がないから。
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