奇跡の行方

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 運転手がブレーキを踏むと、乗っているバスが一度その大きな車体を揺らした。到着したしたことを知らせるアナウンスが流れ、乗客はのろのろと立ち上がり、開いた扉へ向かって歩いて行く。  僕は前の方に座っているにも関わらず、最後に降りようと思い座り続けていた。空気の抜けるようなバスの停車音に乗客がお金を払う軽い音、ざわめきが小さくなり車内が広々としてくると、僕はそこでようやく席を立つ。あらかじめコートのポケットに用意しておいた小銭を払い、バスを降りた。  バスを降りると冷たい風が僕の頬を撫で、その柔らかい感触からは想像できない痛みを残していく。  前日、福岡にしては珍しいくらいの大雪が降ったこともあり今日はバスが動くか不安だったけど、一夜明けてみればそのほとんどが溶けてしまっていた。バス停の隅に残っている雪の残滓を掻き集め、拳くらいの大きさになった雪玉を持って歩き出す。  先に降りた人達はまるで、予行練習を繰り返し行っていた体育祭の行進のように、迷いの無い足取りで同じ場所へと向かって歩いて行く。僕も彼らと目指す場所は同じだ。そもそも、このバス停を利用する人達の目的というのは、確実と言ってもいいくらい合致する。
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