奇跡の行方

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 目の前には大きな病院があった。僕や前を歩く人達の目的は、ここに入院している友人や家族、もしくは恋人のお見舞いだ。  いつから建っているのか判断し辛いくらい古い病院は、増築が繰り返されたのかこの町では一番大きく、全体を見ると色の違いが際立つ。増築された部分は綺麗な白色だが、古い部分は灰色と言ってもいいくらいに薄汚れていた。  雪を固めながら立ち止まり、病院を見上げる。正確には、病院の一室を。カーテンは開いているが、光と視力の問題で中にいる人物を確認することはできない。  彼女は多分、あそこから僕の事を見ているんだろうな。もしかすると、僕に向かって手を振っているかもしれない。  彼女の部屋を見つめたまましばらく逡巡し、それから遠慮気味に手を振っておいた。彼女は今の僕の姿を見て、あの光の向こうで笑っているかもしれない。少し後悔する。  手が冷たい。  右手に持っていた雪玉を左手に持ち替え、息を吐いてその右手を温める。温かくなると同時に掌は湿り、それが風で一気に冷やされる。息を当てる前より冷たくなったどころか、手を温めていた湿気が凍って僕は凍傷でも負ってしまうのでは、と不安になった。  風に冷やされる右手と、雪玉を持つ左手、どちらの方が冷たいか自分自身にも分からなくなっている。  早く室内に逃げ込もう、と小走りで病院内へと向かう。僕は正面からの入り口ではなく、人通りの少ない裏口から入ることにした。  顔見知りの看護師さん達に「また彼女のお見舞い?」とからかわれるのも嫌だったし、何より、病院内に雪玉なんか持ち込んでいるのを見つかったら怒られそうだ。足止めなんかを食っていれば、廊下を包む温かい風ですぐに雪玉は溶けてしまう。
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