奇跡の行方

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 裏口から入ってすぐのとこにあるエレベーターに乗り込み、彼女の病室がある階へと向かう。鈍い駆動音を上げながら重力を与えてくるエレベーターの中で、僕は雪玉を作っている姿をあの窓から彼女に見られていたんじゃないか、ということに今更ながらに気が付いた。  彼女は自分がクリスマスの日に生まれというだけで、雪が好きらしい。雪とクリスマスの関係性は分からない。福岡ではホワイトクリスマスの方が珍しいくらいだ。  外出禁止の彼女が喜ぶと思って雪玉を持っては来たけど、見られていてはサプライズ的演出の要素は薄れてしまう。  僕はクリスマスが近づくと溢れだすあの、町を彩る装飾や響き渡るクリスマスソングが苦手で、「クリスマスは恋人のためにある日じゃないんだよ」と何度も彼女に言っていた。彼女は「恋人がいるのにクリスマスを心から嫌っているは、日本でも君くらいだと思うよ」といつも笑い、「それじゃあ、クリスマスなんてどうでもいいから、私の誕生日はしっかり祝ってね」と無理矢理指きりをする。誕生日と言われては、僕は小さく頷くことしかできない。  町に溢れる恋人達に混じるなんて考えるだけで鳥肌が立ちそうだけど、彼女は僕のことを気遣っているのか、大学生になり互いに一人暮らしを始めてから訪れた二度のクリスマスは、どちらかの家で二人きりで過ごした。ケーキやチキンを食べ、二十歳を越えた去年は二人で初めての酒を飲み、プレゼントを交換して、どちらからともなく相手を求めて、最後は疲れて眠る。  結局、やっていることは他のカップルと同じ気がするけど、彩られた町に出ないでいいだけ、僕の精神状態は正常を保っていられる。
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