奇跡の行方

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 今年もここ二年と同じように、二人きりで過ごすクリスマスになりそうだ。違いは場所が病院で、彼女が健康ではないということ。……問題があるのは彼女自身というより、彼女の中に棲んでいるモノなんだけど。  彼女自身は元気なのに、病院に住まなければいけない。そう考えると、クリスマスに対する想いがこれまでと変わってしまいそうになる。不思議な寂しささえ覚える。  エレベーターは目的の階まで一度も止まることなく昇り、僕が指定した階を示すランプを点灯させながら扉を開いた。持っている雪玉を確認すると、大きさは早くも作った時の半分くらいになっていた。溶けた雪は水となって垂れ、床に薄い染みを作る。  僕はその染みを靴で踏みつけ、これ以上垂れないよう気を遣いながらエレベーターを降りた。  平日だから見舞客も少ないのか、廊下には老人が一人立っているだけで、他の人の姿は見当たらない。まあ、この階に病室が少ないということもあるんだろうけど。  廊下を歩き、彼女の入院している病室の前に立つ。それから迷いなく扉を開けて、中から流れ出てきた温風に心地よさを感じながら部屋に入る。  彼女の病室は個室で、専用の浴室にトイレなどが完備されている。これは別に彼女の家がお金持ちだからというわけではなく、病院側が特別に用意したものだ。僕が住んでいる部屋よりも広い。初めて見た時は、こんな病室が本当にあるんだと感動したものだ。  部屋は白で統一された病院内と違い、暖色系の色彩に包まれている。ベットは窓際に置かれており、今はカーテンで仕切られていた。
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