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ヒーターの稼働音に鼓膜を揺らしながらベットに近づき、迷いなくカーテンを開ける。部屋の借り主である彼女は一瞬驚いた顔をして、それから少しだけ眉を吊り上げた。
「あなたはどうして、こうも迷いなくカーテンを開けれるかな。私が着替え中だったらどうするつもり?」
「あー、いや、君の裸なら見慣れて」
言い終わる前に枕が飛来した。それは僕の胸の辺りに辺り、勢いを無くして床に落下する。
やはり、病人とは思えなくいくらい元気だ。……そこが苦手なんだけど。
「エッチ! セクハラ大王! 甲斐性無し!」
「君の言葉だから有難く受け取っておくけど、最後のは関係ないよな。大体、君は着替え中じゃなかったんだから、そんなに怒らなくてもいいのに」
彼女は長袖のカットソーを着ていて、首には異様に長いマフラーを巻いている。これは入院中暇だということで編み物を練習したらしく、その結果出来上がった物だ。僕と二人で巻いても、全然余ってしまう。
一度、彼女の担当をしている女医さんも混ぜ、三人で巻いて写真をとってみたのだが、そこにはあまりにも間抜けが三人組が写っているだけだった。
「怒る怒らないじゃなくて、常識としてまず相手に声を掛ける習慣を身につけようってこと。そんなんじゃ、社会に出てから苦労するよ」
母親みたいなことを言われてしまった。よく、電話であれこれとテレビで得た知識を基に説教されているから、なんとなく耳の痛くなる話だ。テレビは余計な知識をお喋りな人に与えないでほしい。
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