奇跡の行方

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 羞恥に身を捩る、ってほどではないけど、数分前の自分の姿を思い出すと顔に熱が帯びてくる。 「あー、あれにはちょっと驚いたね。まさかそっちから、私が手を振っているのが見えてるなんて思わなかったし。君が手を振り返してきたのには少し笑えたよ」 「え、何? 本当は見てたの?」 「うぇ!」  女の子のものとは思えない変な声が、どこからか漏れた。彼女の口から漏れたとは考えたくない。 「……お前、そんなどうでもいいことで嘘つくなよな。一人で手を振ってると思ったから恥ずかしいじゃないか」 「うう。だって、君は多分サプライズで、私を驚かせるために雪を集めているのかと思ったから」  雪玉を手の中で転がしながら、彼女はベットの端に後退りする。首に巻いているマフラーが少しだけ締まり、こんなことで絞殺されてたまるか! と間に手を挟むことで阻止。  まあさすがに、彼女にそんな意思はないだろうけど。あるのなら、これからの関係を真面目に話し合う必要が生じてしまう。……これからというのが、どこまでを表しているの分からないけど。  彼女の体温と部屋の温かさで雪玉はすぐに溶け、布団とカットソーを湿らす。僕はベットの隣に置いてある小さな本棚の上からタオルを取り、彼女の手を拭いてあげる。 「……」  こうして実際に触ってみると、彼女の腕がまた細くなったということを実感させられる。雪を触っていたせいか手には温かさがなく、まるで死人の手のようだった。
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