奇跡の行方

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 彼女は手を拭かれている間じっと布団にできた染みを見つめ、僕が拭き終わると満足気な表情で「ありがとう」と言った。それが雪を持ってきたことに対する『ありがとう』か、手を拭いてあげたことに対する『ありがとう』か僕には判断できなかったけど、「どういたしまして」と返しておく。  テレビ見る? と彼女が訊ねてくる。この部屋は他と違い、わざわざカードを購入せずともテレビを見れるらしい。頭の中に今日のテレビ欄を映し、それから断っておいた。  私は見るー、と彼女はチャンネルを手に取ってスイッチを入れる。 「……」  相変わらず自由な子だ。入院生活を始めてから、日に日に悪化している気がする。  彼女はチャンネルをNHKに合わせ、ニュース番組を画面に映す。中国で起こっているデモ(僕にはデモというより暴動に見える)の様子が流されていた。  そこでは日本車が引っ繰り返されていて、僕はどうやってこんな重い物を引っ繰り返したんだろうと気になった。最近はこういうニュースが多く、中国ではこれが一般的な日常の光景なんだと勘違いしてしまいそうになる。 「物騒というより、過激な世の中だねー」  縁側でお茶を飲んでいるお年寄りくらい、のんびりとした口調で彼女が言う。  彼女は大学で専攻した分野の関係上、こういう世界情勢やらは入院してからもつい気になってしまうらしい。  こういう子が彼女ということもあって、僕も携帯やニュースで情報を探すのが癖になってしまった。前はスポーツニュースくらいしか見てなかったのに。 「世界中が過激というわけではないだろうけど」  テレビがそういう所しか映さないだけで。  そんなことより、と僕は言う。
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