【彷徨】さまよう女

5/365

62人が本棚に入れています
本棚に追加
/365ページ
今夜は本を読む気にもなれない。 またこんな汚い布団に寝るのか… 今日からあの威張る検事から、女検事に入れ変わったから、素直に認めてやるか…。 否認していても否認のまま持って行かれちゃうから… 女の刑務所って所は嫌な所らしい。私に務まるかな? 拘置所の中だってイジメや悪口が飛びかってる。 東京拘置所の中は男の未決勾留舎房と女の舎房は完全に別れて居て、遇うことも、顔を見る事も出来なくなって居る。 時々、面会の行き来の時すれ違う時もあるけれど、そんな時は男の方が壁側を見て、立って見えない様にする。 共犯者の場合もそうする。 寝ようと思えば、余計に眠れなくなる。 格子窓には首都高速を走る車のヘッドライトが点々と輝いている。 小菅からちょっと走れば東北道。 3時間も走れば生まれ故郷の『仙台』の街に出る。 仙台に行ったって…今更、誰一人として知ってる人も居ない。 でもこんな所に入ると、なぜか故郷が恋しくなるものだ。 どうでもしてくれ… なる様にしかならない。 何を考えたって、今更って感じかな。 他人は公判を早く終らせ、刑務所に行った方が早いと言うけれど、当事者になって見れば、そんなに簡単に認めるわけには行かない。でも必ず刑務所に行かなければならない。 そんな事をを考えて居る中…何時か深い眠りに付いていた… 一週間はあっという間に過ぎて行った… 青バスは首都高速「小菅インター」から乗った。 右に荒川を見ながら少し走ると、隅田川が右側に別れている。 隅田川を少し下ると浅草、其所に吾妻橋がある。 そこから今日も水上バスが気持ち良く、東京湾に向かって走って行く。 あぁ…あの船に乗って、日の出桟橋経由でお台場海浜公園に遊びに行った事を思いだす…。 あの頃は良かった。 あいつ、今頃どうして居るんだろう? ヤクザな奴だったけど、結構良い奴だったっけ… 懐かしいな…そんな事を考えて居る中に、青バスは霞ヶ関にある検察庁の地下駐車場に入った。 今日は金曜日… この間よりも随分若く見える。 お姉さんと言うより妹の様に見える。 多分私より2~3歳年下ではないか? 「あら。今日は元気そうね」 「そうですか?」 「じゃ、今日はこの間の続きを話してくれる?」 「生い立ちからですか?」 「そう。それから聞かせて頂戴」
/365ページ

最初のコメントを投稿しよう!

62人が本棚に入れています
本棚に追加