【彷徨】さまよう女

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「へえ16才からね…。良く店のママさんに未成年者だとバレなかったわね」 「大人っぽい服を着て、化粧もして、大人ぶってたからですよ」 「それからどうしたの?」 「この店のママさんは良い人でした。部屋も借りてもらい、初めての仕事で、あっと言う間に1ヶ月が過ぎて行きました。ママさんは『休まず働いてくれるから』と洋服も買いに連れて行ってくれて… 「貴女、背丈は何センチの?」 「163センチです」 「あら、もっと大きく見えるわね。髪もロングだし、ヒールを履いてるからかな?」 「そうです」 「じゃ、これにしなさい。目も大きいし、なかなか似合うわよ」 …そして、3ヶ月が過ぎた頃… 週2~3回通ってくれた25才の客と、外でも逢うようになったんです。 7月の暑い夜、この男に初めて抱かれました。 何が何だかわからぬまま、ただその男に抱かれていた。 こんな関係になると、この男の事が気になって… この男が店に来ると、そのテーブルを離れるのがたまらなく寂しくなって… ママにも何回となく注意されていた。 秋風が吹く頃には、彼は私の部屋に転がり込んでいた。 この辺から半同棲生活が始まる。 彼は漁師の仕事も辞めて、私の稼ぎでパソコンをして暮らして居ました。 この時は、それなりに私の方もこんな生活に満足をしていた。 年も明けて東北の厳しい寒さが身に凍みる頃、塩釜港の桟橋に一人佇む時が多くなった…。 あの男も漁船に乗って、遠い海に漁に出て居た。 海の男だったのに… 私が悪いのかな?… ここが私の故郷、海のある町か… 店は今夜も海の男やサラリーマンで賑わって居た。 カラオケも演歌が良い。 その中に私の好きな歌がある。 〓「観光桟橋船が着く、出船入り船、港町、沖じゃ大漁の、掛け声が、ヨイショ、ヨイショと、ヨイショ、ヨイショの唄う大漁の塩釜港 〓夜明けの海から潮鳴りが、舳先は沖の波の上、魚影のむれに友船と、ヨイショ、ヨイショの夕陽を背中に塩釜港 〓大漁祝いの魚河岸に、夜に花咲く尾島町、飲んで踊って祝い酒、ヨイショ、ヨイショとヨイショ、ヨイショの今日も賑わう塩釜港」 …やがて北国の港町にも遅い春がやって来た。 桜の花も咲き乱れ、この頃になると、私の心の中も乱れて来る。 今年の正月には塩釜神社にお参りに行って来たのに… もうこの街に来てから1年が過ぎていた。 あの男も私の部屋に転がり込んで来てから、半年以上経つ。 まるでヒモと一緒だ。
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