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「なんだ、気づいたなら声かけろよな、遥」
「あ、いや……、その」
「ま、いいや。
ちょっとごめんね」
そう言って彼は女子生徒の間を通り抜けて私の方に近づいてきた。
「ホラ行くぞ」
「ちょ、えっ。
……手、手~っ!?」
混乱する私の手をとって車の方へ向かう彼――夏にぃに周りの人はもちろん、私もパニック寸前。
「あ、あの~。
遥と知り合いなんですか?
じゃなかったら誘拐ですけど……」
ナイス!明里!
私を助けて!
「知り合い、ねぇ……。
知り合いというか……」
知り合いじゃなく、ただの隣人です、今は。
と、思ってたその時、女子たちの甲高い声。
え、何。私後ろから抱き着かれてる?
「俺の――――― 妹 」
へ?
「あ、そうだったんですか。
お兄さんがいるなんて私、知らなかったんで……」
「明里、違っ――」
「うん。
ということで、この子借りてくね」
と言って、夏にぃはあっさり私を車の助手席に乗せた。
車内の独特の香りとほんの少し煙草の匂い。
私は何がなんだかわけがわからなくてポカンとしてしまった。
私が妹?
いや、いっそ妹の方が色々面倒じゃないからいいか……。
や、ちょっと待って。
私、これから明里とケーキバイキングで。
せっかく予約した人気のケーキ屋さんで。
私が窓の外を見ると、明里が笑顔で手を振っている。私が“ケーキ”と口パクで言うと、“いーのいーの”と返されてしまった。
「遥、シートベルトしろよ」
あっという間に車は発進してしまった。
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