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クラシックの音楽が流れる車内。
タバコと香水、大人な空間。
沈黙に耐えられなかったのは、隣にいる彼だった。
「遥は……いつになったら口聞いてくれるの?
俺、すごくさみしいんだけど」
誰が話してやるものか。
人が友達と約束してたっていうのに、勝手に拉致したくせに。
私は徹底的に窓の外を見つめることに専念していた。
一昨日と昨日、そして今日。
私を振り回すのは全部この人。
夏木雄大。
「はーるーか?」
多分この人は、夏にぃ、……なんだと思う。
認めたくないけど、昨日のピアノを聞いたから、認めざるを得なくなった。私が一番好きだった音色だから。
ピアノの音色は変わらないのに、弾いている彼を夏にぃではないと否定したら、彼の奏でる音色まで否定してしまうような気がして。
でも、もう“夏にぃ”って呼べない。
“夏にぃ”は、思い出の人。
苦い初恋の象徴。
だから言わない。
“夏にぃ”なんて。
あなたが変わったように、私ももうあの頃とは違うから。
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