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『遥、ちょっと飛ばす』
『へ?』
エンジンをかけて急発進した車。
危ない運転やめて……、なんて言う間もなく、ぐんぐんスピード上げて、車を追い越していった。
『なに?
何があったの?』
さっきの、ちょっぴり大人の雰囲気を含んだ空気を、あっさり壊しちゃう、その原因は何なの?
『……タイムセール』
『……た、たいむ?』
『今日の目玉は、きゅうりのつめほーだいと、鶏肉。
遥、戦場だよ?』
『……はい?』
で、私は――――もうとにかく必死だった。それと……とにかくつめてつめて、つめこんだ、キュウリを。たった一枚の薄い袋にぎゅうぎゅうに。
はじめは何がなんだかわからなくて、目をパチパチさせてたけど、買い物カゴを片手に気合いを入れる彼を見て、吹き出してしまった。
あまりにも……
似合ってないよ、ソレ。
スーツの上から、薄めのコートを羽織って、その甘あまフェイス。
に、買い物カゴ。
でもそれが武器になって。
オバチャンたちと、私が鶏肉の取り合いをしてたら、彼がよこから来て、
『そんなにガツガツしてちゃ、せっかくの美人が台無しですよ』
なんて言ってる間に、軽々鶏肉ゲット。
……ズルい。
私がこのスーパーの戦いで学んだこと。
夕方のオバチャンは恐い。
だけど、夕方のオバチャンはイケメンにめっぽう弱い。
プラス、彼はやっぱり、ずるくて甘い。
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