気持ち悪い裂け目

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椎? 誰? よく分からないと目で訴えてみると、どうしてかあずりは酷く驚いた顔をした。 「…聞いてないの?」 「その、椎、のことか?なにも……」 真実だけを言うと、あずりは舌打ちして何か呟いた。何と言ったかは聞き取れなかったが。 「…それはいい。…とにかく…鈴也は、あんまり頼るな」 「なんで?」 「………ん…俺も椎も、嫌だから?」 そこ疑問形かよ。 嫌という感情はよく分からないが、心配してくれているんだろうという心遣いだけは有り難く受け取っておこう。 「うん、ありがとう」 「……分かってないよね」 またあずりが何か呟いていたが、またしても聞き逃してしまった。 あずりは壁から手を離し俺を解放すると、稀にしか見ないような優しい笑みで俺の頭を撫で回した。 一瞬よく分からず焦ったものの、あずりの気が済むまで撫でられておいた。 「………(可愛い)」 いざ解放されはしたが、この微妙な時間に教室に戻るのは如何なことか。 しかも俺には嫌われ者というレッテルがあるらしいからますます戻りづらい。 「どこに行こう…学校の見取りは知らねぇし…」 考えた揚句、出した答えは屋上。 授業中に屋上に来ようとする人などそういやしないだろうし。 ぶらぶらと回っていた時に見付けた階段を最上階まで登る。 運よく見付けた屋上への扉は、大した鍵も着いていなかった。 屋上には基本安全の為鍵が掛かっている筈なのだが。 しかしよく見ると、鍵が掛かっているのではなく、鍵は壊されていた。 しかも、簡単に壊された跡。 まあ、好都合か。 少し重いドアを、全身で押しながら開ける。すると途端に冷たい風が辺りに充満した。 「……先客?」 ちょうど真っ正面に、フェンスに寄り掛かりながら校庭を眺めている生徒。 背が高い、綺麗な金髪の男子生徒だ。 俺が開けたドアの音に気付いたらしく、その生徒がこっちを振り返った。 「香月!?」 「…うぇ?」 目いいのなアイツ。 誰だかは分からないが、向こうは俺を分かったらしい。 フェンスからゆっくり離れた相手の動きを合図に、俺も屋上のドアを閉めた。 名前を呼ばれて、そのまま無視をして通り過ぎるのも、同じ空間にいながらだと余計気が引ける。 まっすぐその生徒のところへ歩いて行くと、向こうからこっちに走ってきた。
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