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どうして、と聞く前にまたさっさと歩き出してしまった為に聞くタイミングを失い、それは喉元で留まった。
まだ痛む、重傷の両足を駆使して歩かねばならないのか…多分、いや絶対歩けないだろうが、甘え続ける訳にもいかない。
少し遅れてから俺は返事を返した。
「………やっぱり」
ドアの前で、自分から断ったくせに慎重に鈴也は俺を下ろした。
多少ふらつくが、壁伝いに行けば歩けない訳ではないからどうにかなるだろう。
静かな廊下にガラガラとドアの開いた音が響く。それは教室も同じだった。
クラスメート(の筈)の見下す目や好奇の目が俺に集中する。
俺自身は慣れているようで、驚きはしなかったが、いい気分はしない。
「アイツまだ来るの」
「いいストレス発散の材料だよな」
「でも気持ち悪ぃんだよな」
「どっか行けよ」
高校生らしくない幼稚レベルの悪口が飛び交い、一瞬クラスがざわつく。
気にしていたらキリがないと思う。なにもかもを無視して、ロッカーに手をつきながらさっき鈴也に聞いた俺の席へ向かう。
窓側の最後尾、つまり一番端の席といういい席だ。
けれど、隣の席の人間など思い付きもしなかった。
「………え」
『病院行ったんだ?えらいえらい』
俺の席の隣には、メモを見せながら周りとは違う、ニコニコ笑っている藤野がいた。
さっきの態度をしたせいで、気まずい。
俺が席に座ると、前にいた板書を(俺に)邪魔された先生が授業を再開した。
「…あのさ、藤野」
『椎でいいよ』
「…椎」
『ん?』
子供じゃないんだから、と俺の頭を撫で回す椎の手を見て思う。
俺は気まずくて俯いているのに、椎は変わらない態度で、まるで親子のようだと自分で思ってしまった。
「さっきは、さ。あの…」
ごめん、そう言う前に藤野がメモにシャーペンを走らせ始める。それは俺の言葉をせき止める意味らしい。
『さっき?何のことは分かりませんよ(^ω^ )』
とぼけてるのかと思う。
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