気持ち悪い裂け目

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夢は記憶の整理だという。 けれど俺は当然と言うべきか、ほとんど夢は見ない。 一応見た夢をノートに書いてはいたが、年に数回程だけだ。 けれどどうしてか 今日は夢を見て、知らない奴が、知らない奴に何かをしていて…曖昧だ。 とりあえず、いい夢では無かったと思う。  ―――‐‐ 遠くの方から楽しげな声が聞こえて、俺の意識は浮上した。 目を開けると見知らぬ少年。 さらさらの茶髪が、薄く開いた窓から入って来る風になびいて、何だか彼らしい雰囲気が醸し出されている。 思わず見取れていると、俺の視線に気付いたらしいその少年がぱっと笑顔になった。 「起きた!あー良かったぁ…机の下敷きになってんの見た時はどうしようかと思った」 「机?下敷き?…とりあえず、君は?」 安心しきった顔で笑う彼にそう言うと、彼は一瞬止まってまた笑い出した。 いやいや…何なんだよ。 「そっかそっか。ごめんね、寝たらリセットされちゃうんだっけ」 「何その脆いゲームのデータみたいな言い方。よく分からないんだけど」 そこではっとした。 脆いゲームのデータって何だ?自分で言ったようなのに意味が分からない。 何でこんな言葉が出て来たのか分からないんだが。 寝たまま会話も失礼かと思い、上半身だけ上げようとしたが力が入らない。同時に腹に鋭い痛みが走った。 「いッ…!?」 「あーコラコラ!動くなって、な?お前重傷なんだからよ」 そう言って彼は俺の肩を押してベッドに押し戻した。 「お前は橘香月。俺は橋本鈴也ね。おっけー?」 指で丸の形を作り、見せてくる。 乗るべきか否か。無言で頷いておく。 「んで、お前は記憶障害で…」 彼基、鈴也は俺の事や状況を細かく説明した。 俺が分からない自分のことを、なぜ鈴也が知っているのかが疑問で仕方ないのだが。 とりあえず、鈴也を信じておけば大丈夫だろう。 自信満々そうだし。
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