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「…そういえば鈴也、お前俺が起きる前、誰かと話してたか?」
「は?」
「いや、楽しそうな声がしたから」
その声が聞こえて、俺は起きたわけだから。
鈴也は首を捻って考えるそぶりを見せていた。仕草からして誰とも話していなかったのか?
そのうちそれも辞めて、鈴也は聞き間違いだよ、と結論付けた。
それには逆に俺が首を捻る。
確かに聞こえた筈なんだが、この保健室は見た所校庭からも遠い位置にあって、外からの声というわけでもなさそうだし。
言い返そうとも、言い返させないような鈴也の笑みにそれ以上の言葉は出なかった。
――――‐‐
「本当は帰った方がいいらしいんだけどな。 お前、家でも肩身狭い…だろ?」
同情こそしないが、頼りがいのある雰囲気の方が俺には都合がいい。
鈴也はまさにそんな人で、居心地が良かった。
肩身狭いと言われても、実際俺にはその辺りの記憶がない。
けれど家庭がそんな状況ならどんな理由でも帰りたくはない。
「だから勝手にいいって断ったよ。お節介だったら悪いな」
「いや…逆にいいと思う。ありがとう」
途中帰ってきた保健医には安静にしてろと言われたが、甘えてるわけにもいかないと思う。
教室への帰路。
不思議と足が重く感じる。
「…………鈴也」
どこからともなく声がして、振り返ると全身青。…な生徒。
綺麗に整っているが、今は眠そうな顔が俺達を見下ろしていた。
「んだよ、あずりか」
「……どしたの」
鈴也の問い掛けに一度頷いてから、青い奴…あずりは俺を指した。
かなり高い身長で、切れ長な目のせいで怖い印象を受けたが、仕草的にはどこか愛着があった。
不思議な奴だ。
「あぁ、橘? ちょっとね、」
答えを渋ったのは鈴也なりの気遣いだったのかもしれないが、あずりは納得しようとするそぶりは見せない。
それどころか、逆に不審そうな表情に見えた。
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