第一章 伏見の霧

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重蔵は白く長い髭をいじり、言った。 「いかにも、真田忍軍は強敵じゃ、じゃが奴らは城の外じゃ、真田忍軍は戦に特化した忍び、戦さでは強敵じゃが、城内では使い物にならん、奴らの大半は城外警備じゃ、城にいったん入れば、勝機はこちらにある」 上忍 影勇(カゲユ)が熱い息を吐き出しながら言った。 「長!その命、我等影勇忍軍に」  影勇忍軍、総勢二十名で構成される、伊賀忍者最高の忍者小隊。 彼らは密偵を主に活動している忍軍であるが、当初は暗殺を目的に組織された忍軍であった。伊賀者であれば影勇忍軍の別名を知らない者はいない、別名 暗殺忍軍! 数々の暗殺をやり遂げた影勇忍軍は、あの織田 信長 の暗殺も実行したと言われている。  当時、織田 信長 は伊賀攻めを行い、伊賀忍者は絶滅の危機を迎えていた。 歴史では明智 光秀 でが本能寺で信長を打ち取ったとあるが、事実は違う、本能寺で信長は影勇忍軍に暗殺され、側近であった光秀がそれを一早く知り、本能寺を燃やし、討ち取ったように見せかけたのだ。 この頃から影勇忍軍は伊賀忍者の英雄的存在になった。  暗殺忍軍が秀吉の暗殺の命を受けるのに誰も反対しなかった。むしろ的確であると皆思った。  重蔵は影勇に鋭い目付きで言った。 「影勇、うぬらは暗殺は得意じゃが、その前に城外で真田忍軍にやられてしまう」 影勇は静に激怒した。 「長、いくら長でも我等の侮辱は許しませぬぞ!」 「まぁ、聞け、うぬら暗殺隊は密偵が得意じゃ、秀吉の居る伏見城に潜入できるかもしれん、だが二十人いて城に入れるのは三人か二人じゃろう、真田忍軍はわしら以上に目が良いと言う、奴らに城外で見つかるのは必至。 二人か三人潜入しても、城内の上忍には勝てまい。ましてや、豊臣の家臣は猛将揃いじゃ、城内の戦闘は死しか待っとらんぞ。 おぬしの影勇忍軍は場内戦闘には不利じゃ、暗殺と戦闘は違う……」 重蔵のうなだれるような言葉掛けに影勇は肩の力を落とした。 「では、どうすれば」 重蔵は頷くと天井をちらりと見て。 「うむ、うぬらには酷かもしれぬが真田忍軍の囮になってもらいたい」 「囮……自ら真田忍軍に見つかれと」 重蔵は深く頷いた。 「そうじゃ、そして之丸、お前が秀吉を殺るのじゃ」 重蔵の言葉に、そこにいた忍び達は騒然とした。 影勇もまた、驚きと共に、直ぐに重蔵に猛抗議した。
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