※_____さらば、愛しき人よ。

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※※※ じわりじわりと芯から波及する冷え込みとそれに比例する様に肥大してゆく行き場の無いやるせなさをどうにかしようと冷蔵庫を開けた。先ず目についたのは、あの子が何時だか勝手に置いていった桜桃(さくらんぼ)味であろう、見た目にも甘ったるい洋酒の瓶。職業柄か度数も低めだ。 不意に、どうしても呑んでみたくなった。昔から相手を知るには相手の『好きなもの』から知るべきだと謂う。だったら甘党の気持ちに近付くには甘いものしか無いだろう。呑んだら未だにぼんやりしたあの子の黒に覆われた部分を少しは掴めるかもしれない、と栓を引き抜いた。 ※※※ 心身共に参りきっている時は弱い度数であっても十二分に酔えるらしく、ぼくの身体は冷気が回る室内にいるというのにすっかり火照りきっていた。軽く逆上せて目眩までする始末。
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