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ぐわんぐわん、揺らぐ視界に不快感を覚えて瞼を閉じた。脳内の映写幕に繰り返し映るのは、ぼくの真横で今にも息絶えそうに弱々しくもがく速水。といってもこれはぼくなりの精一杯の喩(たと)えであって、速水は実際にもがいている訳じゃない。何時もの無表情で必死に平然を装っていても、ぼくには速水が偽の悪を幾重にも塗り固めて隠し通す脆く澄んだ実質が透けて見えてしまうのだ。だけど他者――棘が生い茂るあの心の一面を見渡せるのは後にも先にもぼくしか有り得ないが――にその実質を暴かれ、更には気に掛けられることを、速水は嫌った。余計なお世話だと頑なに振り払った。
ひたすら心配する以外に速水を護る手立てを何一つ知らないぼくは戸惑ってしまった。誰よりも繊細で、ふとした瞬間に儚さを露にするあの子を憂える他にどうやって愛を伝えれば良いのか。悩んでも悩んでも結論は出せないまま、堂々巡りで現在に至る。
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