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以前、機転の利く小さな心療内科医の助手がぼくに教えてくれた所謂心理検査とやらを思い出した。その中に自分が消えてほしいと思っている人間の数が判るというぼくにとっては厭味でしかない腹立たしい問題があったのだが、不思議なことにぼくの答えはたった一人、だったのだ。
『……白鳥さん、まさか嘘書いたりしてませんよね、?』
どうも結果に納得がいかないと言わんばかりに疑いの眼差しを向けてくる小さな助手にその時はたじろいだものだが、今になってどうしてぼくの密かに思う消えてほしい人間が一人しかいないのか、そしてそれは誰なのか。ふたつの疑問に対する明確な答えは即座に浮かんだ。
そうか。ぼくがずっとずっと消えてほしいと思っていたのは、
「――…ぼく自身、だったんだ、」
だとしたらもう、何も迷うことは無い。ぼくが消えることであの子もぼくももっともっと幸せになれるというのなら――。
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色彩を喪って霞みゆく世界でぼくが最後に見たのは、舞い踊る紅い飛沫と愛しいあの子の蒼い顔。
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