愛を歌えば

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「優希さんもごめんなさい。」 圭吾から離れ、彼女の手を握った。 「気にしないで。」 いつもの彼女の笑顔で… こちらがほんわかするような 優しく…暖かい…。 「あっ、ご飯食べてからでもいい?」 「え?」 「折角の圭吾の手料理食べて、 デザートを食べてたら ちゃんと出ていくからね。」 にこっと笑うとすぅーっと席につき、 ご飯をまた食べ続ける優希さん。 呆気にとられていると、 圭吾がぽんっと私の肩を叩いた。 「優希さんって根に持つタイプ?」 「いや、ただの天然の馬鹿正直。」 「なるほど。」 何となく納得できた。 美味しいものは美味しい。 不味いものは不味い。 それが見てとれるように、 持ち前の明るさと、 度が過ぎる天然、 そして人を魅了する 神の申し子的才能。 その後釜に選ばれたプレッシャー、 感じたことのなかった私は… 今さらになって身震いを感じた。 実力不足…。 私は料理が美味しいだけで 歌詞を書くことはできない…。 頼まれたから即興で作るなんて 到底無理なわけで…。 自分が歯向かった人の大きさを 知ったとき、どうしてこうも… 恐怖が勝るのか…。 それがたとえ帰ってこない 相手だったとしても…。 「ってか、優希が汚れてるって どういう意味?」 「ん?ちょっとした噂…。」 「信じてるの?」 「信じてた。 でも、圭吾達が望まない仕事の 取り方はしないと思うから。 今からは信じてないよ。」 「ならよかった。」 嬉しそうに笑う圭吾につられて 私も笑った。 でもその心境は複雑だった。
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