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それから1時間に渡り演奏したが、
「ダメダメ!!話になんない。」
「何がダメなんですか!!」
「あんたから魅力が感じれない。
この曲の歌詞の意味を考えなよ、
バラードはただどんより歌えば
いいって問題じゃないんだって、
何度言ったら分かるの!!!」
OKがでるどころか、ピリピリとした
雰囲気に包まれ、薺は涙を流した。
「ねぇ、瑞樹さん。
瑞希さんがこの曲に対してのイメージと
薺が持ってるイメージが違っています。
瑞希さんのイメージはどんな感じなのか
それをどんな風に歌ってほしいのか、
伝わっていないと思いますよ。」
優希が瑞樹さんに話しかけ、
「例えば...」
2人が話し込むと薺はセットから出て、
現場を去り、美里がその後を追った。
「いろいろ歌ってみます。
イメージに合ったら言ってください、
どんな風に歌ったか言いますから。」
「...分かった、頼むよ。」
瑞樹さんの合図で優希がマイクを握り、
再び演奏を始める。
何度も...何度も...
だけど優希は嫌な顔一つせず歌い続け、
なんとなく優しい空気に包まれた。
「ん...もう一度頭から」
瑞希さんが納得のいく演奏を心がけ、
そんな思いが一つの歌からいくつもの
世界を生み、場の雰囲気を和ませる。
いつだってそう...
自分達の自己満足だけで歌を歌うな、
そんなモットーを掲げてやってきた。
みんなが聞いて、泣いて、笑って、
思わず歌いたくなる曲を作るために。
僕は忘れてしまっていた。
大事な君との約束を...
「ちょっと、待って。」
優希が言うと演奏を止めた。
「晃、サビは半音あげて、
その方が歌いやすいと思うよ。
圭吾と卓はリズムを1つあげて、
ドラムは2打目を強調するように。」
「「「了解。」」」
「じゃサビの5小節前からお願い。」
優希の指示に瑞希さんは口を挟まない、
ただ頷きながら真剣に僕達を見ていた。
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