波風がつれてきた出会い

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「OK、イメージは掴んだから誰か薺を 呼んできてよ。」 歌い、演奏を繰り返し話をつめること 1時間、優希はセットから降りた。 「優希どこ行くの? あとで外ロケに行くからいてよ?」 「分かってます。 ちょっと気分転換してきます。」 「分かった。 ありがとう、後でね。」 その後の撮影は順調に終わり、昼ご飯を 誘うため優希を探した。 かぢゃ 屋上へ通じる階段をゆっくり上り、扉を 開けると、微かだけど歌声が聞こえる。 「居場所がほしかった... 誰にも壊せない場所... アナタに居て欲しかった... ほら... アナタの温もりを... 体中が覚えていて... ほら... アナタの温もりが... 愛しい..」 キミハイッタイ ダレニムカッテ ウタッテイルノ? こんこんっ 「優希、お昼一緒にいかないか?」 「行く!!」 わざとらしく扉を叩いて声をかけると、 優希はこっちに歩いてくる。 「もしかして泣いてた?」 頬に触れると真っ赤になり、 「見てたの?」 少し離れて僕に背を向けた。 「ううん、何となくそう思っただけ。」 後ろから抱きしめると少しだけ、身体が 強ばって震えている。 「落ち着くまでこうしてようか?」 「...」 「優希?」 「こっち...見ないで... もう少しこのままで...いて...」 君は声を殺して泣いた。 しばらくすると、まるで何もなかった みたいに笑って僕を見る。 「あぁ―――!!おなかすいた。」 なんておどけて、腕に縋ってくる君が あまりにも可愛いから頭を撫でた。 「さっきはよく頑張りました。 ご褒美に、ご飯奢ってあげるよ。」 「本当に?じゃ久しぶりに商店街にある アンアンのラーメンが食べたいな、 特盛りラーメンにメンマ大盛りで。」 「デザートは?」 「いる!!!」 君が好きな中華のデザート、 「「杏仁豆腐!!!」」 ほら、当たった。 「早く行こうよ、」 何でもない、些細な幸せ。 嬉しそうに僕の手を引く君、 一緒にご飯を食べて、 ゲームセンターに寄り道。 ぬいぐるみをせがみ、 とってあげると、 「宝物にする!!!」 なんて大事そうに抱えて、 大袈裟な事を言う。 今はそれだけでいいと思えるほど、 君の隣は居心地が良かったんだ。
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