愛を歌えば

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それから圭吾とは、言葉を交わす事なく 撮影に入り、撮影場所が離れている為、 姿すら見ないまま撮影時間は終わった。 時はすでに夕方。 「お疲れ様でした。」 挨拶を交わして車に戻ると一番奥の席で 優希さんが本を読んでいた。 「お疲れ様です。」 「あ、お疲れ様。」 本を閉じて眼鏡を外した。 「千代ちゃんの歌、スゴいね。 惚れ惚れしちゃったよ。」 嘘ばっかり... 「有難う。」 笑顔で答えて隣に座った。 「優希さんも素敵ですよね。 圭吾から聞きましたよ、私が来る前には shines futureに居たんですよね?」 「え、えぇ...」 ほら表情が曇った。 「今は私がいるから安心してください。 圭吾の事も私、彼を一番に考えて彼の 為にステージで歌っているんで。」 「そうなんだ、圭吾愛されてるね。」 張り付けたような笑顔、 無理してるのバレバレ... 「あ、圭吾だ。」 ジュースを手に帰ってきた。 「あ、ジュース買ってきてくれんだ。 彼、頼んでなくても私の飲み物、買って 来てくれるんですよ。」 手には2本しか持ってないことなんて、 見たらすぐに分かったみたいで、 「予定があるからもう行くね。」 そそくさと車を降りて、圭吾とすれ違い ながら去り、入れ代わりに圭吾が車に 入ってきた。 「優希と何話してたの?」 「晃の話。」 嘘だったのに飲み物をくれた。 「千代美...」 「何?」 ジュースを受け取ると優越感に浸る。 「次優希に嘘吹き込んだら許さない」 冷たい言葉だけ残して前の方に座って しまった。 ネェ... キヅイテ...ワタシノキモチ... 私の為に用意されていないジュースを 一気に飲み干した。 「...野菜ジュース?」 何で野菜ジュース... もしかして... 優希さんが好きなの物? 「お疲れさん。」 「お疲れ様~。」 しばらくするとみんな帰ってきて、車は 動き出した。 みんな顔を合わすなり楽しそうな話を してたけど、私は一番後ろの席に座り 誰とも話すこともなく、空の紙コップを 持ったままホテルにつくのを待った。
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