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事務所を出、小鳥公園の近くを通る。
「公園に人がいる。珍しいな」
夏樹はそう言われ、公園を見る。自分はよく行く公園だが、そのことは言わなかった。
「あら?」
公園には確かに人がいた。それだけではない。夏樹はその顔を知っていた。
「ごめんなさい。飲みはまた今度にして」
「え、あの、夏樹さん?」
男の制止も聞かずに夏樹は公園に入り、知った顔に近付く。
「……春香ちゃん?」
「わひゃい!?」
夏樹が声をかけた瞬間、春香は飛び退くと同時に奇声をあげる。よほど驚いたらしい。
「あ、お昼の……」
「八雲夏樹よ。夏樹でいいわ」
夏樹は春香の隣に座ると、当然の事を聞いた。
「どうしてこんな所に?」
昼にも似た質問をした。しかし今は質問に込められた意味も意図も違う。純粋に、ごく当たり前の疑問として、夏樹は質問をしていた。
「………………」
無言。言いたくないのだろう。理由は夏樹にはわからない。
だが、推定はできる。この年頃の少女がこんな時間に公園にいる理由。それを夏樹は推定する。
「家出?」
早口に、春香にだけ聞こえるような声で言った。春香は顔をほんの少しだけ上げ、拳を握りしめた。
(図星、かな?)
こういう時、どうすればいいのだろう。普通なら警察に届ける。しかしこの少女を警察に届けていいのか。そんな疑問が頭をよぎる。
「んー………………よし!」
夏樹は立ち上がり、春香に手を伸ばす。差し伸べられた手の意味がわからずに春香は沈黙する。
「私の部屋に泊めてあげるわ」
「え!?」
「ほら、ここじゃ風邪ひいちゃうでしょ?」
半ば強引に、というか強引に春香を引っ張り、夏樹は公園を後にした。
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