第1章 卒業

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体育館からピアノの旋律にのって仰げば尊しが聞こえてくる。 朝まで降り続いた雨のせいで湿ったベンチに座りながら、俺は覆い被さるように枝を伸ばす桜を見上げていた。 就職先が見つからないまま卒業式を迎え、何とも言いがたい不安と後悔に息苦しくなった。 卒業式の最中に 「気分が悪くなった」と言って、外へ出てきたのだ。 母には(申し訳ないな)と思う。 三年前…どうしても高校へ進学したいと言う俺の話を聞き入れ、苦労して学費や寮費を捻出してくれた母。 恐らくは自分に期待してくれているであろう母が落胆する姿と、無為に過ごした三年間を悔いる気持ちが交錯して俺を苛むのだ。 ふと視線を下ろすと、学生服のそでに張り付いた桜の花びらが目に留まった。 濡れた花びらの鮮やかさが自分を責めているような気がして、思わず息を吸い込んだ。 そして吐き出すようにつぶやいた。 「これからどうしよう…」 その時、背後から聞こえた女のつぶやきが俺のため息と重なった。 「ああ、どうしよう…」
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