170人が本棚に入れています
本棚に追加
4
続いて深雪が話を始めた。
「私、見たんです。夜中に残って、売り場の商品を万引きしようと、鞄に入れていたとき……」
急に店の雰囲気が張りつめる。全員の緊張が肌で感じてとれた。ようやくまともな怪談を聞けそうだからだ。
「そんなことしたらあかんやん」
しかし、最悪のタイミングで、間の抜けた声の茶々が入った。不屈の闘志で起き上がってきた和也である。
「うるさい死ね!」
つまらないこで水を差した和也を、八茄が蹴り飛ばした。和也は後ろの本棚に吹っ飛び、その衝撃で倒れてきた本棚の再びの餌食となる。
邪魔者がいなくなったので、深雪は続ける。
「私、見たんです……ガラスに映る人影を……」
リアルだ。ボケがない。
「どこかで見たことあるような……白い顔に、まあるい輪郭で、本を持った……口が耳くらいまで裂けた……笑顔の……、……いつも……いつもいるのよ!」
それがヨム○ム君であることには、しばらくしてから気付いた。
そらいるやろ。
心で突っ込みをいれていると、十八子が、
「次は私ですね……」
と、目を光らせた。そのあまりの光に、その場にいた全員が目をやられた。向かいの述村は、溶け始めている。
「私は夜中になると最近すぐに目が覚めて……」
十八子が高齢ならでは怪談を話していると、血濡れで倒れていた和也がトイレに立った。売り場の方へ向かう。
「俺も行こう」
秀三郎も席を立つ。
最初のコメントを投稿しよう!