16人が本棚に入れています
本棚に追加
/15ページ
「起こしてくれてサンキュー。」
「え、あ、うん・・・。」
中藤がぎこちなく頷く。
オレはひらひらと手を振り、鞄を取りに教室に戻った。
これが中藤との最初の会話だった。
――亜津紗との最初の会話。
――何気ないこんな会話に君は嬉しさを抱いていたなんて・・・。
――あの時のオレは気づかなかった。
「話した!?中藤と?」
「お前が起こしに来なかったからな。」
「あ~・・・忘れてた。」
「薄情な奴。」
たまたま下駄箱の前で会った晃司に昨日を話をすれば大きな声で驚かれた。
オレはじとっと晃司を睨む。
その元凶となったのはこいつだからだ。
「うらやましいな、お前!」
「別に起こしてもらっただけだよ。」
「それでも!」
「そんなに話したいなら話しかけたら?」
オレの隣で騒ぐ晃司を適当にあしらい、教室の前で別れ、教室に入った。
「今日も学校に来たの~?」
「意外と図太いよね。」
既にそれは始まっていて中藤は涙を浮かべていた。
中傷の言葉にうんざりして教室を出て屋上へ向かった。
「やっぱりここが落ち着くな。」
いつも通り、オレは寝転がる。
ゆっくりと雲が流れていく。
心地いい風が吹き、オレの髪が揺れた。
ゆったりとしたこの時間は教室では感じられない。
だから、この屋上がお気に入りの場所だった。
「倉本くん・・・?」
「中藤?」
中藤は先ほど着ていた制服ではなくジャージ姿で手にはビシャビシャの制服を持っていた。
よく見れば艶やかな黒髪も濡れている。
「どうしたんだ?」
「ちょっと・・・濡れちゃったから制服を乾かしにね。」
どう見てもちょっとではない。
恐らく、水でもかけられたのだろう。
最初のコメントを投稿しよう!