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「そのキャッチャーミットはね、おじいちゃんのなんだ。」
咲希が静かに話し始めた。
「うちが小6ぐらいのときにピッチャーになった、っておじいちゃんに言ったら、
んじゃ、おじいちゃんが捕ってやる!
って言ってはりきって買ってきたんだ。
っあ、おじいちゃん昔は野球部でキャッチャーでキャプテンだったんだって。
んで買ってきたわいいんだけど腰が痛いとかいってしゃがめないってわめいてた。馬鹿だよね、おじいちゃん」
おかしそうに、ケラケラと
笑い声をあげながら
咲希は話すがどこか表情は
寂しいそうだった。
「んでね、結局一回も捕ってもらってないのにこの間の春休みにおじいちゃん死んじゃった‥‥‥
癌だったの、おじいちゃん。
なのに入院中も何度もうちに
元気になったらあまえの球、捕ってやる!
ってはりきってた。
今は捕れないから投げ方のコツとか言って色々教えてくれたりしたこともあったなあ。
昔の自慢話もたくさんされてたなあ。
俺は天下一のキャッチャーだあ!とか言ってさ。
ほんっと、馬鹿だよね。
おじいちゃん。」
咲希は少し震えた声で
夜空を見た。
私も春の透き通った夜空を見上げ
静かに咲希に話しかけた。
「私がそんな大切なおじいちゃんとの思い出の品を貰ってもいいの?」
「うん。すごく大切な物だけど、真由にあげる。
だって真由に私の球、捕って貰いたいから。」
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