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丸い丸い月が、淡く夜道を照らしていた。
こちらを見ている。
見られている。
これから起こりうる事の、唯一の目撃者だろう。
これは夢?それとも幻?いいえ…これは紛れもない真実。
込み上げてくる。
これは…殺意?狂気?苛つく破壊衝動。
抑えきれない気持ちは、風船のように膨らんで。
私はもう。上っ面な善人を止めた。
それの何と楽なものか。何故もっと早くしなかったのか…今になって思う。
シャリ。
ああ、やっぱり。
(抜刀音は、落ち着くのう。)
青年は少女のような顔立ちに笑みを浮かべ、大刀を抜いた。
前には初対面の浪士が数名。ぐるり、囲まれているが、青年はニヤリ。口端を上げる。
と、1人の男が嘲て笑った。¨貧弱そうなお前1人に、何が出来るのか¨と。
「もう済んじょるけえ、心配はいらんち。ほれ」
青年に言われ、男は驚愕した。…己の成れの果てに。
目に写る、本来無ければならない物。在って当たり前だと思っていた、物。
「…あ…あ…うあああああああああああああああああああ!」
ストン。と落とされた両手首から、悲鳴と共にドクドク。夥しい血液が辺りを染める。
そんな浪士を尻目に、青年は残りの浪士達を斬って回った。
「…なんたらあ。数だけで、手応えが無いち。」
青年はベッタリ絡み着いた血脂を刀を、一振りに払う。
黄金に輝いていた月が、紅く見えるのは、手首を切り落とされ未だ残されている男の目に写る青年の姿が、飛び散る血飛沫を恍惚とした笑みで浴びているからだろうか。
そして。
悟るのだ。
¨ああ、次は自分だ¨
と。
けれど、
「逃げるう言うなら、今んうちぜよ」
青年の突拍子もない言葉に、男は驚きにゴクリ。固唾を飲んだ。
敵に背を向けるのか。
かりにも、大小二本を腰に差し、勝てないと分かっても。
「……逃げたい。」
男の呟きに、青年は¨賢明じゃ¨言って、今度は無邪気に笑って見せた。
「いつまで続くか分からん命。なら、最後まで咲かしたらにゃあ。母上が泣きゆうわ。」
言いながら、脱兎の如く背を向け走り去る男を、ただ見ている。
…ただ、見ている。目を細め、唇は薄く開き微笑みながら。
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