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慌てふためく男達。
だが、道を遮る一人の影。
「敵に背を向けるなんてね」
夜道に影を落としながら、その青年もクツクツ。喉を鳴らした。
「夜道は気をつけた方が良い。特にこんな夜は」
青年は言うと、シャツ。抜刀…するや否や、悲鳴すらあげさせずに屍を作って見せた。
「栄太郎?わしゃあ逃したろう思うちょったのに」
青年は血飛沫すら浴びずに立つ、栄太郎という青年に薄ら笑いをして見せる。
「どの口が言ってるのさ?そんな気更々無かった癖に。冬月(ふゆつき)」
全くもって、栄太郎の言う通り。
冬月はただ少しの猶予を与え、ゆっくりと絶叫する姿を見たかっただけだ。
「なんたらあ、分かっちょって殺ったがか?不粋じゃのう」
栄太郎は呆れながらに、「これだから手に負えない」と、言わんばかりに首を右往左往して見せる。
「ところで?栄太郎はこれから仇討ちがか?梅にも着いて行かんかったしのう」
『梅』とは、また後に出てくるであろう。
「仇討ち?まあ考えなくもないけどね。けど俺は派手に殺りたいんだ」
ここで、全ての道が分かれる。始まりは…ほぼ同じようなものだった。しかし、皆己の思うままに、心で感じ頭で考えた結果。
「…冬月、お前は変わらんか?」
変わる…それは。
冬月が切に願い、信念にするもの。決して形を変えず、貫き通すと決めたもの。
「…誰と出会うて語ろうとも、この愛刀を交えても。わしゃあ、これだけは変わられへんち。」
冬月の瞳は月に照らされ、赤く。紅く。…冷たく。
「次会ったら、敵か味方か…後者を願うさ」
栄太郎は刀を納め、冬月の頭から足の先まで通った一本筋に、夜陰に身を潜めた。
「栄太郎、わしゃあ、おんしでも構わんち。敵だ味方だ?関係無いんじゃ」
見上げれば、月が…泣いているのか。
安政六年、『安政の大獄』吉田 松陰の死去が始まりである。
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