壬生浪士組

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それから冬月は人斬りを生業としながら、ぬらり。くらり。洛中へ上京していた。 何時もの宿は、夢と現の境目。 柳の木に囲まれた其処は、一歩足を踏み入れただけで空気が変わる。 煙管の臭い。 白粉の臭い。 酒の匂い。 酒の匂いしか心地よいと思えないのは、虚ろな目で薄ら笑い、甘い視線を送る女らが憐れに見えるからか… 否。 店の灯りに煌めく蝶は、何処に在っても這いつくばり、生き抜き、煌めきを絶やさない。 それが冬月には好ましく無かった。堕ちない姿が、面白く無かった。 人斬りを生業とするのも、金が貰えて食って寝る。一石二鳥で、好きな事をして許されるオマケ付きだからだ。 「帰ってきはったと思ったら…また寝てしまはるん?」 遊女が物欲しげに物を言う。 「…何度もおんなじ事言わすんは、不快なだけがや。明日からは、もう来えへんき。」 「もう来ない」その冬月の一言と、不快を買ってしまった事に、遊女はそれから口を開く事は無かった。 …自分の命が惜しかったからだ。 「賢明じゃ」冬月はクツクツ。笑うと、さっさと何時もの布団に潜り込む。 「冬の月…おんなし名前やのに…」 何故こうも違うのか。遊女が呟く。 冷たさが、違うのか。他の季節に比べて、冬の月は冷たくも澄んで見え、何処かあたたかい。 けれど冬月は、一年中凍てつく空気を纏っているようだった。 文久二年。肌寒い風が、季節を知らせる頃。 冬月の中で今までゆっくり流れていた時間が、津波のように加速する。
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