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『捨てられたんですか?』
吉田は身も蓋もなく声を掛けてきた。優しい言葉が欲しかった訳でも無かったから、ただ頷いて見せた。
『ああ、青い瞳が綺麗ですね』
吉田は言うと、迷うこと無く自分の塾へ引き入れた。
『名前は?』
聞かれたが、
『捨てた。』
ただそれだけ答えた。そんな可愛いげの無い自分に、吉田が考えたのだ。
『季節も良い。冬の月は朝にも其処に在って、青く光るんですよ。』
何を言っているのか、小首を傾げていると、
『冬月(ふゆつき)にしましょうか。青く光る気高さを、君に持って貰いたい』
その日から、自分は冬月になった。ただ…
その名前の意味には応えられない。そう思いながら。
「…前しか見えない」
呟いた冬月に、聞き逃したと、沖田が振り向く。
「なんも無いきに。試験があるがやろ」
冬月は艶っぽく笑んで、沖田を急かした。
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