激突

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ある日、ただ散歩で近所の公園へと向かったときだった。 公園には、つい最近までユーリを虐めようとしていた連中がいた。 五人の少年達は囲むように誰かを蹴ったり、叩いていたりしている。 全く暇な奴等だ そんなことを思いながら、散歩のコースを変えようと公園には入らず道を変える。 そのときだった。 少年達の隙間から見覚えのある人物が見えた。 イノリだ。 僅かに見えたが間違い無い。 耳を澄ませば、彼女に吐き捨てられる罵詈雑言には自分のことが含まれている。 「ユーリはズルイ」 「お前の兄貴は悪い奴だ」 「あの強さは何か悪い薬でも使ってるんだ」 根も葉もない内容の言葉が彼女には降り注いでいた。 どうやら、ユーリに力では適わないと思った彼等の標的はイノリに変わったらしい。 普段から無口の彼女は反論も反撃もせず、暴力を受け入れていた。 馬鹿な奴だ ユーリは、そう思った。 助ける必要は無いだろう。 自分が嫌だったり言いたいことが行動に移せば良いのに、彼女はそれをしない。 弱いからは言い訳だ。 ユーリは家にでも帰って寝ようと思い、イノリに背を向けたときだった。 「お前の兄貴は卑怯者だ!!」 そんな声を響いた。 勝手な言い分だ。 こちらと才能だけじゃない、努力もしてきたんだ。 その上で今の力があるんだ。 お前等も、そんなことをしている暇があるなら少しは努力したら良いものを―― そんなことがユーリの頭に浮かんだ。 すると、 「違う!!」 初めて聞いた大きな声が響いた。 ユーリは驚いて振り返る。 そこにはイノリが目に涙を浮かべ、立ち上がっていた。 そして彼女は再び叫んだ。 「卑怯者は貴方達の方です。『兄さん』を貴方達と一緒にしないでください!!」
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