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「お前、何であんなこと言ったの?」
一騒動を終えた後、ユーリは散歩という気分でも無くなったので家路に着くことにした。
すると、後ろからイノリが黙って付いて来る。
暫くは沈黙が続いていたが、ふと先程の彼女が言った発言が気になり尋ねてみた。
「えっ? あぁ、それは……」
少し驚いた表情を見せた彼女は語り始めた。
「お父様もお母様も、『兄さん』のことを良く嬉しそうに話ますので……」
彼女の言う兄を示す言葉は、何処と無く引っかかるものを感じた。
それは、自分は彼女に兄らしいことなんてしたことが無い上に、家族という認識すらも甘かったからだろう。
「話を聞いて凄いと思いました。才能もあり、努力もして……」
彼女は照れ臭そうに語る。
今は努力という言葉は忘れてしまっていたが、父も母も彼女も自分もことをどう思っているのかを知ってユーリは少し驚いた。
どうやら父や母から話を聞いている内にイノリにも憧れの感情が芽生えたらしい
言わば、彼女の中ではユーリはヒーローなのだ。
だから、虐めていた連中にユーリの悪口を言われ我慢ならなかったのだ。
「あの、兄さん」
すると、少し力を入れてイノリがユーリに呼びかけた。
ユーリは振り返ると、彼女は照れ臭そうに何かを言いたがっていた。
そして、
「助けてくれて、ありがとう」
彼女は満面の笑みで、そう言った。
そのとき感じた彼女の笑顔と、少し照れ臭い気持ち、そして、
胸が温かくなる感覚を、彼は今でも覚えている。
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