君のいない右側

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花火大会当日の夕方、彼女から電話が来た。 『愁!あのね、今日はすごく調子がいいの。お医者さんも外出許可出してくれたの。だから、ね?』 電話越しの彼女の声は弾んでいた。 俺はその言葉に何の疑いも持たず承諾した。 俺は急いで準備をし病院へ向かった。 「花火、楽しみだね」 「あぁ、そうだな」 会場に向けて俺たちは肩を並べて歩いた。 隣りで楽しそうにしている姿を見ていると俺も自然と笑顔になる。 そんな感じで歩き続け、会場まであと少しというところで彼女は足を止めた。 「愁、疲れちゃった。ここからでも見えるかな?」 「見えるよ」 俺たちは草の上に腰を下ろした。 腰を下ろしてしばらくして一発目の花火が上がった。それと同時に彼女は呟いた。 「あたしね、幸せだったよ」 二発目の花火が上がる。 「だから、もういいの。あたし、愁が好き。こんなに優しくしてくれるお兄ちゃんなんかいないもん。だから、お兄ちゃんには幸せになって欲しいの」 彼女の声は震えていた。俺は彼女がどこかへ行ってしまう気がして強く抱き締めた。 抱き締めると彼女は俺の腕の中で静かに泣いていた。 なるべく俺に気が付かれない様に、声を殺して…… しばらくして、落ち着きを取り戻すと 「ごめん、少し寝て良い?」 そう呟いた彼女の声は今にも消えそうな弱々しい声だった。 俺は心配して彼女の名前をよんだ。 「瀬菜?」 「大丈夫だよ」 彼女はそう言って笑いながら逝った。 笑いながら死んだ……
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