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絶体絶命。
――その言葉が相応しい人間は自分以外に存在しない。
そんな勘違いを真面目に頭に巡らせるほど、少年は生命の危機を感じていた。
「ぷっ、はぁー……」
息を殺しすぎて呼吸すら忘れ、危うく窒息していまいそうになった茶髪の少年――マイン・セントは、慌てて息を吸う。
細い眉とそこまで高くは無いもののくっきりとした目鼻立ち。
いかにも純朴そうなその顔立ちには、脂汗が浮き出ていて、ブラウン色の瞳は、肉食獣に怯える草食獣を連想させるくらい揺らいでいた。
大木が連なる場所に身を隠して気持ちを落ち着かせる為に、深呼吸を試みる。
すると、幾分か気持ちの高ぶりは和らいだが、切迫した状況であることは変わらない。
木陰から少しだけ顔を出し、若干人よりも細い目を更に細めて、状況把握に努める。
(うぅ……何も見えない)
しかし、彼の視界に広がるのは、青々しく生い茂る木々や草花が辺り一面に広がる大自然。
時折吹き込む風に揺れる草花の優しい音が、マインの耳に度々聞こえてくる。
一見、平穏な光景に思えるが、マインには死角が多数存在する危険地帯としか捉えられない。
風が草花を凪ぐ音も、自らの命をつけ狙う者が飛び出して来るのではないかと、内心でびくびくしている。
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