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(一刻も早く、ここから抜け出さないと!)
優しげな容貌を無理矢理引き締めて、そう意気込む。
何故なら同じ場所に留まるのは、動き続けるのと同様にそれ相応のリスクがある。だが、それはマインも重々承知していた。
『危険』という言葉が、脳内で何度も繰り返されている。
しかし、そうと脳が分かっていても、肝心の身体はぬかるんだ土壌によって悲鳴を上げ、身動きがとれない。
彼の背丈は百八十は越えているが、筋肉と呼べるものは乏しく、かなり細い体格。
彼が履く水色のズボンの裾と、フード付きの紺色のローブには泥が至る所にこびり付き、必死に逃亡してきたのが分かる。
(これから一体どうなるんだろうか……)
疲れを癒やしつつ、辺りを見渡す。しかし、己が進もうとしている道は鬱蒼と木々が立ち並び、マインにとって二つの意味で一寸先は闇、である。
「しっかりするんだマイン・セント! 砂漠も越えたんですからきっと大丈夫ですよ」
ブラウン色の瞳を不安げに揺らしながらも、自らを奮起させるために呟いた言葉が、虚しく脳内にリフレインした。
気恥ずかしさすら感じるのはマインの気のせいではないだろう。
「――あの野郎! どこに行きやがったんだ!」
そんな気恥ずかしい感情を一瞬で吹っ飛ばす声がマインの鼓膜に響く。
慌てて身を屈めたマインは、息を潜めて声のする方へと聞き耳を立てた。
「見つかったか?」
苛立ちを露わにする男と、冷静というよりも冷徹な声で問いかけながら近づく男は、マインの顔見知りであった。
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