天才少年

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さっきまでの楽しげな表情はどこかへ行ってしまう。トランプは少し儚げな雰囲気を醸し出しハートには聞こえない声でそう呟く。 本当に儚げ。淡く光る蛍火のようであり強い風が吹いてしまえば消えてしまいそうであった。 ハートは初めて見るトランプの表情に何も言うことが出来ず黙り込んでしまった。 さっきまでの楽しげな会話が嘘のように静まり帰るロビー。二人とも話の内容がないかのように何も喋ろうとはしなく気まずい空気だけがその場を支配する。 けど、その気まずい空気は次の瞬間には綺麗さっぱりと吹き飛んでしまう――お客様が来たことによって。 部屋内に鳴り響く鈴の音に導かれるようにして二人はその音が聞こえてくる入り口へと顔を向ける。 入ってきたのは女性。キリッとしたした瞳にゴムで縛られた後ろ髪。身長は女性にしてみれば高い。なんと言っても目をひかれるのがその服装。 軍服。これだけではまだインパクトは小さいが女性の彼女が男物の軍服を着れば驚くほどにはなる。 女性は事務所に入るなり驚いているトランプ達を無視するように何かを捜して周りを見渡した。 不審者。しかし客だという可能性も消えたわけではない。トランプは少し警戒しているが誠意を込めて対処しようと彼女へと近づいていく。 「いらっしゃいませ。今日はどういったご用でいらっしゃったのですか?」 「あっ、ごめん。私、客じゃないの。ちょっとある奴を捜しているのよ」 「ある人とは?」 「クローバーよ」 「クローバー……をですか?」 「そう。あいつ、この頃ここのことを話していたからもしかしたら来てるんじゃないかって思ったんだけど……。どうやら来ていないみたいね」 「あの~、あなたはクローバーとはどういう関係ですか?」 トランプ自身はクローバーとは会ったことがない。前のダイヤが起こした事件の時は彼とは入れ違いになって結局どんな人物か確認できなかった。 当然のことながら今どこにいるかや何をしているかなんて全くわからないこと。 ただこの目の前にいる女性は明らかに怪しすぎる。このまま帰していいものかすら悩んでしまうほどに。 だから、トランプはこの女性が何者でクローバーとはどういう関係かをはっきりさせるために聞く。
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