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「ふふーん、こんなに人がいたらスリもやりやすいわ」
駅から少し離れた路地裏。そこで先ほどまでこの人混みに乗じてスリを働いていた者は今回の収穫を笑顔で確認していた。
スリ犯は先ほどトランプにぶつかった女性。赤毛のウェーブかかったロングヘアーをしていており、なんと言っても特徴なのが口調と深紅のような赤い目だった。
「ね、姉ちゃん……やっぱり見ず知らずの人からお金を盗るのはやっぱりよくないよ……」
その女性の隣に立っている男は未だニヤニヤと笑っている女性とは打って変わりおずおずとした態度で怯えていた。
男は中性的な顔立ちをしており、女性と言ってもわからないほど。しかも身長も高く黙っていればモデルと思われるほどカッコいい。こんな女々しい性格をしていなければモテていたことであろう。
「うるさいわね《ジャック》! いちいちうちのしたことに口答えすんなや!」
「で、でも……」
「それに奪った奴らは全員金を持ってるやつらよ。こんなちっぽけな金くらい盗んでも死にはしないわよ」
まるっきり犯罪の意識を感じていない。女性は心配そうな目を自分に向けている弟――、ジャックを尻目に奪った財布を物色し始める。
ジャックもこれ以上言っても無駄だとわかっているので呆れはしていたが何も言わなかった。
弟の気持ち姉知らず。呆れる彼を横目に二コニコと笑いながら財布を確認していた女性。だが、あることに気づくと次第にその表情は曇っていき、最終的には渋いものへと変わってしまった。
「ど、どうしたの姉ちゃん、そんな渋った表情なんてして」
「……ないねん」
「ない?」
「そうや。うちが盗んだ人数は十七人。せやけど今この場にある財布は十六個しかないねん」
「どこかで落としてきたんじゃないの?」
「そんなわけあるか! うちを誰やと思ってんねん! あの天下を轟かせているカードの《クイーン様》やで! 落とすとかそんなヘマをするわけないやろう!」
「じゃあ何で……」
「それがわかったら苦労はせいへんわ!」
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