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「多分最後のあれやろうな……」
満月が綺麗に浮かび上がる夜。その満月を見上げて考え事にふける一人の女性がいた。
彼女は今、とある美術館に潜入しておりその美術館のベランダの手すりに両手をつけていた。
赤いドレスに赤毛のロングウェーブ。見る者達を魅了させる何かを持っておりこの美術館にやって来てから何回か声をかけられていた。だが、彼女はそんな男達など全く相手にせず考えていた。
いつもなら違う。いつもの彼女なら自分に話し掛けてきた男と適当に話をする――隙を狙って金品を盗むために。それすら考えられないほどその考え事は大事なことだと言えよう。
その考え事というのは昼間にやったスリがのこと。大して気にならないことだと思うであろうが彼女にしてみればそうはいかない。
狙った獲物は必ず盗める。それほどの自信の持つ自分がある盗み損ねた。これは今だかつてない汚点である。
その汚点に彼女――、クイーンは思い当たることがあった。
最後の一つ。若い男から財布を盗んだ際にとある男がチラリと自分の視界に入ってきた。たったそれだけのこと。だけどクイーンの中ではそれが妙に引っ掛かっていた。
(確かあいつ、最初は盗んだ兄ちゃんの後ろにいたはずやろ。
でも、うちが通る際にあの兄ちゃんの隣に移動してきた。
あれはただの偶然やろうか?
もしかしたらうちがスリをやることに気づいていたんか?
……そんなわけないな、あんな人混みでスリをやろうとすることはスリをする人間しかわからん。
誰も予知できへんことや)
確かに。行動というものはやっている本人しか次にすることはわからん。
人混みのスリなんてものは特にだ。人混みだから視界が悪くいきなり奪い去っていくので対処できない。それを予防ではなく予知できることなんて不可能なことだ。
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