序章

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 ――神様は、居ない。  例えばそんな考えに至ったとした場合、俺はどう動くべきなのだろう。  さあ、初めに付言する。俺は未だ無知な子供だ。意識を言語化することの出来ない手探りの子供は、痛みを痛みと呼ぶことが出来ない。愛を愛とは認識しない。子供の知っていることといえば、林檎が悪魔であることくらいのものだろう。そんな訳で俺のふと考えついた思いもまた、そのまま漠然という深淵に床した。まるで晴天を濁すあの邪な雲のよう、考えれば考えるほどそれは蔓延し、雨をいつか呼んだ。俺はたちまちに濡れ始め、雨は次第に雷鳴を呼び、瞬時に閃光へと照らされ、瞳さえ機能しなくなり、雪が降れば俺の身体を白銀に窶すし、霜が降れば、俺の身体を焼き付かんばかりに凍らせてしまう。  そんな中、俺はいつか助けを求めはじめる。  助けてくれと。  拙い言語をそのまま喉へ伝わせ、ただただ叫ぶ。しかしそれは嵐の中に放つも同じようで、誰の耳にも届かない。  予測が出来ない訳ではなかった。俺は初めにいっている。神は居ない、と。だがそれとは別に、幻滅しないわけにはいかなかった。無理だとわかっていても行おうとする人間は哀れを通り越す。天から吊らされた糸が切れるのを必然と感づけない人間のことだ。だがそう気付いた――否、思い出した時には既に声は枯れ果てていた。  ここまで来れば、誰の目にも明らかだろう。最早、俺のすることはひとつしか残されていない。縋ろうとする考え自体を、打破しようとする思い以外には。  俺は、たちまち自身によって救済処置を練りはじめた。初めのうち、つまりその案を生み出した頃の俺の瞳の揺れるのは道理、理解出来ない者は自身で一から地球を作り出していく様を考えてみるといい。それは中々に魅惑的なことだ。過程においては、ということになるが。  さて、では結果から。何とか表面上は取り繕えた。見晴らしのいい丘に小屋を作った。色とりどりの花も植えた。しかしそれだけだった。それもそうだ。今まで何人もの詩人、或いは哲学者が己の世界を創造してきた。だが俺はついぞ、地球そのものを創造した人間を知らない。大抵は地下水脈を忘れている。何も貶している訳ではない。俺に関していえば、そこに太陽を作ることさえままならなかったのだから。利き腕の中指が人より数ミリ歪んでいるなどと訴えている段ではない。……
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